大判例

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東京高等裁判所 昭和32年(う)894号 判決

被告人 島森キヌ

〔抄 録〕

弁護人の控訴趣意について判断するに先だち、

職権により原判決及び記録を調査するに、

原判決は、その理由において、罪となるべき事実として、「被告人は借金の返済その利子の支払及び頼母子講の掛金等に窮した結果、新たに頼母子講を起してその講元となり、講員より金員を騙取しようと企て、昭和二十九年四月中旬頃より同年七月下旬頃までの間、相次いで、十三口一組三万二千五百円取り(通称二十日講又は二十日無尽)、十二口一組二万四千円取り(同二十七日講)、十口一組二万円取り(同九日講)、十二口一組六万円取り(同十日講)、十五口一組一万五千円取り(同一日講)の五の頼母子講を発起して(発会は四月から八月迄毎月各一講)、講員を募集するに際し、加入した講員に対し講規約(文書によるものでなく、慣習により世上に行われているもの)に基き誠実に入札、落札を実施し、満会に至るまで支障なく順次講金を給付する意思も能力もないのに、あるように装い、その頃被告人自ら、又は情を知らない講員を介して、東京都杉並区大宮前六丁目四百四十一番地増田蝶方外数ケ所において、同人外十八名に対し、「今度無尽を始めたから一口入らないか、メンバーはしつかりした人ばかりだ。」等と虚構の事実を申し向け、同人らをしてその旨誤信させ、因つて同年四月二十日頃より同年十二月初頃までの間、前記増田蝶方等において、別紙犯罪一覧表記載のとおり、同人等より、二十日講会、二十七日講会、九日講会、十日講会、一日講会の掛金名下に交付を受けた金員中、合計金三十万二千四百八十円を騙取(具体的手段は、自己名義の第一回落札金の外、架空人名義の加入者及真実の加入者の名義を冒用して落札金を自己に領得する方法による)したものであるとの事実を認定判示しているのであるが、右原判決の判示するところは、被告人が、真実頼母子講を発起してその講元となり、これを運営して行く意思がないのにあるように装い、頼母子講の発起を仮装して相手方を欺罔し、これに加入させたことにして、その掛金名義で金員を交付させてこれを騙取したという意味であるか、または、被告人が、真実正規の頼母子講を組織してその講元となつた後に、その加入者らに対し、欺罔手段を施してこれを錯誤に陥らしめ、その掛金名義で金員を交付させてこれを騙取したという意味であるかが、原判決の判文自体では明らかでないようである。即ち、原判文の中ごろにおける『(前略)講員を募集するに際し、加入した講員に対し講規約(説明省略)に基き誠実に入札、落札を実施し、満会に至るまで支障なく順次講金を給付する意思も能力もないのに、あるように装い、その頃被告人自ら、又は情を知らない講員を介して、(中略)同人外十八名に対し、「今度無尽を始めたから一口入らないか、メンバーはしつかりした人ばかりだ。」等と虚構の事実を申し向け、同人等をしてその旨誤信させ、』とある部分をみれば、前者のように受けとれないこともないようであるが、しかし、判文冒頭における「(前略)新たに頼母子講を起してその講元となり、講員より金員を騙取しようと企て、」とある部分、及び判文末尾の「(前略)講会の掛金名下に交付を受けた金員中、合計金三十万二千四百八十円を騙取(具体的手段は、自己名義の第一回落札の外、架空人名義の加入者及真実の加入者の名義を冒用して落札金を自己に領得する方法による)したものである。」とある部分等から考えれば、後者のようにも解されるのであつて、判文全体としては、そのいずれを意味するかが必ずしも明らかであるとはいえないのである。それで、もし前者の意味だとすれば、詐欺罪の成立はこれを認め得られるのであるが、それならば、掛金名下に交付を受けた金員全額について詐欺罪が成立する筋合であつて、原判示のように交付を受けた金額の一部についてのみ詐欺罪が成立するとみるのは不合理である。また、もし後者の意味だとすれば、原判決においては、その講母子講の規約の内容、講の内部における被告人の地位及びその職務権限等を示して、掛金の性質、被告人と掛金との関係を明らかにしなければ、被告人が右講の掛金として交付を受けた金員を不正に領得した所為が、果して原判示のような詐欺罪を構成するか、または他の犯罪を構成するかの点が明確にならない道理であつて、もし、被告人が正規の頼母子講における正当な責任者であつて、掛金の取立、当籖金の支払等の権限を有していたとすれば、同人が、その権限に基ずき、講員らより掛金として交付を受けた金員中の一部を、原判決が本件犯行の具体的手段として判示する方法によつて不正に領得する所為は、必ずしも原判示のように詐欺罪を構成するものとは限らないものといわなければならない。なお、記録によれば、原判決において、被告人が講員より掛金名下に交付を受けた金員の一部について詐欺罪の成立を認めているのは、起訴状記載の公訴事実によつたものと認められるのであつて、右は、あるいは検察官において、何らかの理由により、詐欺罪の成立する金額中の一部についてのみ起訴したものであつたかも知れぬが、兎に角、原裁判所としては、以上に挙示した不明確な諸点につき、原審公判において、検察官に釈明を求めてその趣旨を明らかならしめ、審理を尽すべきであつたと考えられるのにかかわらず、ことここに出ないで、審理を尽さなかつた結果、前示のような判決において明らかにすべき事項を明らかにすることができなかつたことが窺われるのであつて、ひつきよう原判決は、詐欺罪の判示としては、理由不備のそしりを免れないものというべく、右は、刑訴第三七八条第四号所定の判決に理由を附せず、又は理由にくいちがいがある場合にあたるものであるから、原判決はこの点において破棄を免れないものといわなければならない。

(中西 山田 石井謹)

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